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オニドコロ・ヤマノイモ(ジネンジョ)・ナガイモの見分け方については、ヤマノイモの辨を見よ。
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辨 |
ヤマノイモ属 Dioscorea(薯蕷屬)については、ヤマノイモ属を見よ。 |
訓 |
和名トコロの語源は、諸説があるが、不明。古くはトコロヅラといい、中古からトコロと呼ばれた。 |
『本草和名』薢に「止古呂」と、萆解に「和名於尓止古呂」と。
『延喜式』萆薢に、「トコロ、オニトコロ」と。
『倭名類聚抄』薢に「土古呂」と。
『大和本草』に、「萆薢(トコロ,ヲニトコロ)」と。 |
説 |
北海道・本州・四国・九州・陝甘・山東・華東・湖北・廣東・四川に分布。 |
根茎は肥厚して横に這い、しばしば曲り、多くの鬚根を出す。味は 苦い。
むかごをつけない。 |
誌 |
中国では、塊茎を萆薢(ヒカイ,bēixiè)として薬用にする。『新注校定国訳本草綱目』6/p.295。 また、一部の地方で草薢(ソウカイ,căoxiè)として薬用にする。(正式の草薢は、D.hypoglauca 及び D.officinalis の根茎)。 ヤマノイモの誌を参照。 |
日本では、根はふつう食わないが、昔は焼いたり茹でたりして食用にしたという(和名抄)。
また根茎のようすを、腰が曲り鬚の生えた老人に擬え、野老と書いて海産の海老と対照し、長寿の象徴として正月飾りに用いる。
すなわち、「長壽ヲ祝スル爲メ正月ノ春盤ニ用ヰ其鬚根ヲ老人ノ鬚髭ニ擬シ、山ニ生ズルヲ以テ野老ト書セリ、卽チえびヲ海老ト書スルト同趣ナリ。根莖ヲ食スル處アリ、味苦シ」(『牧野日本植物圖鑑』)。 |
『古事記』に、日本武尊(やまとたけるのみこと)が三重の能煩野(のぼの)で死んだとき、
是に倭(やまと)に坐(いま)す后(きさき)等及御子(みこ)等、諸々下り到りて、御陵(みささぎ)を作り、即ち其地(そこ)の那豆岐田(なづきだ)に匍匐(は)ひ廻(もとほ)りて、哭(なき)為(ま)して歌曰(うた)ひたまひしく、 |
なづきの田の 稲幹(いながら)に 稲幹に 匍(は)ひ廻ろふ 野老蔓(ところづら) |
『万葉集』に、
皇祖神(すめがみ)の 神の宮人 冬薯蕷葛(ところつら)
いや常(とこ)しくに 吾かへりみむ (7/1133,読み人知らず)
・・・冬薯蕷葛 尋め行きければ・・・(9/1809,高橋虫麿)
トコロには、和名抄・新撰字鏡・名義抄に薢の字があてられており、「署蕷」は、和名抄にはヤマノイモ、名義抄にはヤマツイモの訓がある。しかし、音数のことを考慮に加えて、冬薯蕷をトコロと訓むことにする。(日本古典文学大系万葉集二1133補注) |
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此山のかなしさ告よ野老堀 (芭蕉,1644-1694)
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